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小津の意味ありげな視線から逃げるように、私はかたくなに前を向いた。
「やっぱ似合うよね、スカート」
「うるさい」
「もう少し丈の調節したほうがいいけど。全体のバランス的に」
「……」
「それかハイソックスだね。もっと長めのほうが僕好み」
「小津の好みなんて聞いてない」
「僕も君に言ってない。今のはただの独り言」
そんな小津の唇は、今日も女子並みにツヤツヤだ。かさつくと痛くて不快だから、まめに手入れしているらしい。
そのあたり、みっくんとは大違い。みっくんなんて、下手すればリップクリームの存在すら知らないかも。
「で、大好きな『みっくん』はなんて?」
「……」
「え、まさか気づかれなかったとか?」
「違う。会ってない」
見せられるわけないじゃん、こんな姿。
吐き捨てるようにそう返すと、小津はしばし黙り込んだ。それから「なるほどね」とつぶやいた。
「さすが意気地なし」
「うるさい」
「君ってほんと、男らしいのは外見だけだよね」
「黙れ」
「まあ、意気地がないのに性別は関係ないか」
小津は頬杖つくと、ふわっと口元をほころばせた。
「似合ってる」
「……」
「君は絶対スカートのほうがスタイルがよく見える」
そんなの知らない。興味ない。
小津に褒められたって嬉しくない。
(みっくんだ)
俺の基準は、すべてみっくんなんだ。
みっくんがどう思うか。みっくんがどう受け取るか。
(じゃあ、もしみっくんが「似合う」って言ってくれたら?)
今の小津みたいに褒めてくれたら?
俺は、明日からスカートを履くようになるのかな。
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