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小津の作戦は、本人いわく「いたってシンプルなもの」だ。 「君の幼なじみの前で、僕が君に好意を盾にせまってみせる。それによって、君が誰かと──自分以外の『男子』と恋をする可能性がある、ということを気づかせる」 「へぇ、それで?」 「それだけだよ」 「えっ、おしまい!?」 いやいや、ダメじゃん。 それだけじゃうまくいきっこないって! 「なんでさ。仲の良い幼なじみが、見知らぬ男に告白されてるんだよ? ふつう立ち止まるくらいはするでしょ」 「しないって! むしろ『告白されてる』って気づいたら逃げるから!」 昔からそうだった。「バレー部の○○が可愛い」「保健委員の××さんっていいよな」みたいな話題に、みっくんは絶対に加わらない。それどころか、場合によってはその場からいなくなることすらあるんだ。 「それに、俺たちすでに試してるじゃん。俺が小津にちょっかい出されてる──って伝えるやつ」 あのときも、微妙な答えが返ってきただけだった。やきもちをやくような気配は、みじんも感じられなかった。 「だから、小津が俺に告白するふりしても、みっくんは反応しないと思う。──まあ、へんな誤解をすれば別だけど」 「誤解って?」 「俺が小津にケンカ売られてるとか」 「いや、その誤解はないでしょ、さすがに」 俺もそう思いたい。 でも、相手はみっくんだ。情緒とかが苦手な単細胞、だけど正義感は強め。曲がったことが大嫌い。 「なるほどねぇ」 小津はしばらく考えこんだあと「じゃあ、それでいこう」と手を打った。 「は? それってどれ?」 「ゆすりたかりに見せかけて『実は告白でした』って驚かせるプラン」 「いやいや、無理だって!」 「でも、それなら足をとめてくれるんでしょ、君の幼なじみは」 それは──まあ、そうだと思うけど。 「でも、下手すればボコられるよ。みっくん、小学生のころ『暴れ犬』って呼ばれてたし」 「その犬が暴れる前に誤解を解いてよ」 「ええっ、聞いてくれるかな」 「聞かせてよ。そこは君が頑張るところ」 それじゃ決定、と小津は薄く笑った。 「まあ、僕も頑張るよ。今回の役回りはちょっと難易度高めだし」 「へぇ、どのあたりが?」 「一歩間違えると、脅すの忘れてふつうに君を口説きそうなあたりが」 ──そういうリアクションに困るコメントはやめてほしい。 うまく流せないし、俺はどう頑張っても小津のことを友達以上には思えない。 なのに、小津は嬉しそうに目を細めるんだ。 「いいね。そうやって僕のこと少しずつ意識してよ」 「……してねーよ、意識なんて」 「って言うわりに、今、微妙な間が空いたよね」 痛いところをつかれて、俺は黙り込む。 そうだよ、本当はちょっとだけドキッとした。 だって、こういうの慣れてないし。俺、こんなだから今まで男子にへんな感情向けられたことなかったし。 そのままうつむくと、いつものからかうような声が耳に届いた。 「君の『みっくん』も、そんなふうに少しずつ君を意識するようになってくれるといいね」 うるさい。もう放っておいて。 でも、ちょっとだけ期待した。 俺が今、一瞬小津にドキッとしたように、みっくんも俺にドキッとしてくれるとしたら。 この、こじらせて膠着してしまった状況も少しは変わるんじゃないかって。
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