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そんなわけで、俺は小津の作戦にのることにした。
といっても、内容の詳細はまったく聞かせてもらっていない。小津いわく「素人は、演技しようとすればするほどギコちなくなるから」ってことで、不意打ちみたいに仕掛けるつもりでいるらしい。
なんだ、それ。そんなので本当にうまくいくのかよ。
けど「じゃあ、君はうまく演技できるの?」って問われても、「うん」って即答できるほどの自信が俺にはない。
というわけで、俺は作戦遂行をまるごと小津に任せることにした。
1日、2日──何事もなく日々が過ぎ、衣替えが行われ、ブレザーを着るようになって最初の月曜日の昼休み。
「酒匂さん、ちょっと時間もらえるかな?」
いつものメンバーと学食に行こうとしたところで、小津が声をかけてきた。
すぐさま反応したのは、俺じゃなくて一緒にいた子たちだ。この間の女装事件以来、彼女たちはこぞって「もうみっくんはやめろ」「小津にしろ」とうるさいのだ。
だから、俺が頷くより先に「どうぞどうぞ」と俺の背中を押しやった。
「あやめのことよろしくね」
「いい報告待ってるから」
「小津のこと信じてるから」
いや、ごめん。
これは十中八九そういうんじゃない。
(いよいよ、例の作戦を決行するんだ)
俺は、気合いをいれて小津のあとをついていった。
小津は、正面玄関に向かうと下駄箱から靴を取り出した。
「え、外行くの?」
「中庭にね。君と、これから人に聞かれたくない話をしたくて」
「あ──そう」
まあ、演技とはいえ、自分が女子生徒を脅しているところをむやみに人に見られるのは嫌だよなぁ。
──あれ、でも中庭で作戦を決行して、みっくんちゃんと気づいてくれんのかな。教室から見てくれるとか? そういえば、みっくん今、窓際の席だっけ。
あれこれ考えながら、俺は小津のあとをついていく。歩幅はいつもより小さめ。小津って歩き方が上品だ。これがみっくんだと、ズカズカドカドカ歩くから、俺もズカズカドカドカ歩かないと追いつけない。みっくんはちびっこのくせに、昔から歩幅がけっこう大きいんだ。
そんなこんなで中庭に到着した。めずらしく今日は誰の姿もない。いつもなら誰かしら──主に3年生がいる印象なんだけど、そういえば今日3年生は課外学習で校内にいないんだっけ。
「なあ、どうすればいい?」
俺は、若干ソワソワしながら小津に声をかけた。
「今から例の作戦だろ? 俺、どうすればいい?」
「そのことだけど」
小津は、ようやく立ち止まった。
「作戦、やっぱりなしにしようと思って」
「……は?」
「君のこと、本気で口説こうと思って」
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