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ところで、毎朝一緒に登校している俺たちだが、下校はほぼ別々だ。 俺は野球部に所属しているけれど、酒匂はどの部活にも入っていない。入学したてのころ、その背の高さを見込まれてバスケ部やバレー部から熱心に誘われたらしいが、本人は「野球以外のスポーツには興味がないから」と結局断っちまったらしい。 だったら女子野球部のある学校に行けばよかったのに、と思わなくもなかったが、通学できる範囲にはなかったとのこと。ただ、部活に入らなかった分「塾だ、バイトだ」と忙しいらしく、それなりに毎日充実しているようだ。 というわけで、帰りは別々に下校する俺たちだが、これまた奇妙なことに地元の最寄り駅で合流することが多い。 俺が駅前のロータリーを歩いていると、例のごとくあいつが現れるのだ。 「みっくーん、一緒に帰ろう」 朝と同じくスクールバッグを引っ張られて、俺は「おう」と短く返す。 「塾の帰りか?」 「ううん、今日はバイト。ほら、髪の毛に帽子のあとが残ってるじゃん」 「……見えねーな」 「あ、そっか。みっくん背がちっちゃいもんね」 「うるせぇっ」 そんなこんなでくだらない話をしながら、俺たちは今晩も帰路につく。 ちなみに、今日は酒匂の愚痴がメイン。どうやらクラスメイトのひとりに不満がたまっているらしい。 「そいつ、小津(おづ)っていうんだけどさぁ。なにかと俺にちょっかい出してくるんだよね」 なんだそれ。 まさか、いじめられてんのか? 「いやいや、そこまでじゃなくてさ! なんていうか、俺が弁当食べてたら、後ろから覗き込んできて『うまそう』って唐揚げ1個持ってったり!」 ああ、そういう感じな。 「他にもさ、俺の机に勝手に謎のポエムを書いたり、『唇荒れてる』ってリップ塗ろうとしたり」 ──ん? 「俺が重い荷物をもってると『ひとりで運べるの?』ってからかってきたり、寝癖がついてるって髪の毛引っ張ったり」 待て待て。 たしかに、ちょっかいと言えばちょっかいだけどよ。 「そいつ、お前と友達になりたいんじゃねーの?」 「ええっ」 「たまにいるだろ。気になる相手に、へんにちょっかい出すやつ」 「いやいや、いないって。そんなことするの小学校まででしょ」 それもそうか、俺ら高校生だもんな。 そうこうしているうちに、いつもの交差点が見えてくる。 横断歩道を渡ってまっすぐ行けば俺の家、左に曲がればコイツの家だ。 「じゃあ、みっくん、また明日!」 おう、またな。 軽く手をあげて、俺はスクールバッグを背負いなおす。 腹減ったな。今日の晩飯なんだろう。 唐揚げが食いたくて仕方ないのは、たぶんあいつの愚痴のせいだな。
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