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下駄箱で靴を履き替えていると、例のごとく原田が俺の隣に並んだ。
「なになに、今日はあやめちゃんと一緒じゃなかったじゃーん」
「寝坊したんだと」
「えっ、待ってあげなかったの?」
「待たねーよ、なんでだよ」
「え──」
あやめちゃん、可哀想。
ぼそりと呟く原田に、「は?」と荒っぽく聞きかえす。
「だってあやめちゃん、置いていかれたってことじゃん。待っててあげなよ」
「なんでだよ」
「ひとりで登校なんて寂しいじゃん」
「べつに寂しくねーよ、ガキじゃあるまいし」
繰り返すが、俺たちは特に約束をしているわけじゃない。あくまでタイミングが重なったとき、一緒に登校しているだけなのだ。
「じゃあ逆は?」
──逆?
「名城が寝坊したとき、あやめちゃんが待ってなかったら寂しくなったり……」
「ならねーな」
「即答!?」
「当然だろ。何度も言わせんな」
むしろ、酒匂が待っていたらビビるっての。
ガードレールに寄りかかって「みっく〜ん」なんて手を振ってきたら、「馬鹿、なにやってんだよ」って蹴りのひとつもいれてるぞ。
「え──そこは『待っててくれてありがとう』じゃないの?」
「で、ふたり揃って遅刻するってか」
「そう! おててつないで仲良く遅刻」
「つながねーよ、気持ち悪いこと言うな」
とはいえ、あいつのことが気にならないわけじゃない。ぎりぎり間に合いそうとは言っていたけど、一本乗り遅れたらほぼアウトだろう。
念のため、メッセージを送っておくか。
そんなことを考えながら教室に入ろうとしたところで、
「名城くん」
今にも消えいりそうな声に呼び止められた。
同じように立ち止まった原田が「おっ」とにやけた笑みを浮かべる。
声をかけてきた女子に見覚えはない。ネクタイの色を見るかぎり、どうやら同じ学年のようだ。
「あの……あのね」
必死に言葉をつむごうとするその姿に、ズンと胸が重くなった。
できれば気づかなかったことにして、このまま教室に入っちまいたい。
けれど、捕まっちまった手前、今更どうすることもできやしねぇ。
「なんだよ」
「あの、今日……あの、放課後……少し時間をくれませんか?」
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