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彼女の申し出は、ほぼ予想していたものだ。
だから、俺も用意していた言葉を返す。
「悪いが無理だ。放課後は部活がある」
「でも、少しだけでも……」
「いや、無理だから。俺、主将だし」
「部活のことなら代行するよ? 副主将の俺が──」
うるせぇ、原田。よけいなこと言うな。
手加減なしの蹴りでチームメイトを黙らせると、俺は改めて目の前の女子に向き直った。
「用件があるなら今言ってくれ」
「えっ」
「放課後は無理だ。昼休みもやりたいことがあるから時間を作れねぇ」
だから、今ここで用件を言ってくれ。
それ以外は応じられねぇ。
「あ、ええと……」
目の前の女子は、今にも泣きそうな顔でうつむいた。
少しだけ、胸が痛んだ。細っこい腕が震えていたから。
けど、ここで引くわけにはいかねぇ。申し出に応じて、クソみたいなめにあうのは二度とごめんだ。
結局、折れたのは彼女だった。
「ごめん……やっぱり、いい……」
絞り出すような声でそう言うと、きびすを返して走り去った。
周囲から、ため息が聞こえてきた。それも複数。教室の前でやりとりしていたせいか、いつのまにか人が集まっていたみたいだ。
「名城さぁ」
原田の目には、あきれたような色がにじんでいた。
「アレはない」
「わかってる」
わかってんだよ、ひどいこと言ってるって。
けど、俺は女子とふたりきりになりたくない。特に好意をちらつかせる相手とは絶対にだ。
教室に入ると、数人の女子がこっちを見てひそひそ話していた。通りすがりに「ひどすぎ」と聞こえたのは、偶然ではなくわざと俺に聞かせようとしてのことだろう。
いや、ひどいのはお前らなんじゃねーの?
本気でそう思ってんなら、うっすら笑ってんじゃねーよ。
(ああ、これだから……)
これだから、俺は女子が苦手なんだ。
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