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いざ生涯初の戦闘へと向かう──その前に。
改めてステータスを振り返るとさ。
絶望的に低いHPは二桁前半。これがどれほどヤバいかというと比較的安価な回復薬で回復できる量が300程度。きずぐすり、でも100程度だそうな。
つまり一般人の言う大したことのない怪我で死ぬレベル、と言えばお分りいただけるだろうか?
ワンパンで軽く死ねる件。
力もやっぱりない。どれくらいないかと言うと憧れの大剣を持ち上げることすら出来ないほど。
いや本気で使うわけじゃないけど。ロリっ娘に大型武器って基本じゃないですか?
ともかくだ。片手剣も満足に振り回せないくらいだなんて。
丸腰でどうしたらいいっていうんだ。
なーんてね。あるのよ、こんなオレにも戦う力が。
圧倒的スピードと魔法による暴力的な火力。
そう。冗談でもなんでもなく、勢い余って全振りした結果起きた奇跡。
最初は走馬灯的なやつかと。
世界がスローモーションになったのかと思っていたら、まさか自分が周りの何倍も速く動いていただなんて。
残念、それは残像だ。え?古い?
「い、いつの間に」
「へへっ。逃げ足だけは速いもんねっ」
「それ自分で言っちゃう!?」
いやだって、速さを活かして攻撃しようにも武器がろくに扱えないんだもん。
避けて飛んで逃げて。魔法の力で一発逆転なの。
「えっ。魔法、ないの?」
「魔法書は魔法具屋さんでしか買えないの。本当、ごめんね」
「ふぇ」
魔法使いは生まれた時から魔法使い、じゃぁないだなんて。
やっぱ無理。詰んだ──
「あっ。そういえば、私持ってるかも」
「……?」
「たしか、ここに」
救いのヒーローいやヒロインはいつもそばに。
するとマオお姉ちゃんは魅惑の2つの丘に手を突っ込み──なんてことはしません。はい、ちゃんとカバンを持ってます。
改めて見てもマオお姉ちゃんは理想的なお姉ちゃんだなぁなんて。優しくて包容力があってふくよかで。
神様。マオお姉ちゃんと出会えた幸運に感謝致します。
「あった」
「うにゃっ」
いかにも重たそうな本を受け取る。や、これはさすがに持てるの。
「私は魔法の才能からっきしでさ。でもとあるダンジョンで見つけた掘り出し物だから捨てるに捨てられなくて」
「ふぇ。いいの?」
「もちろん。何となく売らずに取っておいたのは今日この時の為だったんだなって」
「マオお姉ちゃん……っ!」
泣かせるようなこと言うのずるいって。この子感受性がものすごく豊かなんだからさぁっ。
本当、大好き。ありがとう。
「お礼を言うにはまだ早いよ。シャルルちゃん、しっかり開いて読んでごらん」
「う、うんっ」
落書きにしか思えない謎の象形文字が読める、読めるぞっ!
「『初心者に優しい魔法入門書。これでキミも今日から立派な魔法使いだ!』」
「……はは。えーと」
「マオお姉ちゃんありがとうなのっ」
困惑するお姉ちゃんに抱きついた。
もったいぶったわりにしょぼいとか思うわけないじゃないですか。
これさえあれば宝の持ち腐れだった魔力を存分に活かせるんだから。
「いやいや、本当大したものじゃなかったし」
「ううん。だいじょぶなの。マオお姉ちゃん、見ててね」
えっへんと無い胸を張って。
気分は悪をやっつけるスーパーヒロイン。ノリにノッちゃうよ。
「お姉ちゃんが教えてくれたわたしの必殺パワー。行っくよー、ファイアーショット!」
3桁で一握りと言われる数値が4桁超えたらどうなるか。いざ。刮目せよ。
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