1章

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 言い返したら「やっぱり、柄の悪い人のやる仕事だから」と言われるのが関の山だ。  最初妻も止めていたが、だんだんそれもなくなった。むしろ一緒になって嘲笑する。  最近は妻から「転職してよ。こんなのよそのママ達に言えないじゃない」と言われる始末だった。  よそに見栄を張るために仕事をしている訳ではない。  今の仕事を大学卒業してから、ずっと何十年もして誇りに思っている。  子どもの頃、家を立て直すのに職人達が高い所で作業してる姿や重機をのりこなしている姿を見て、カッコいいと思った。 『おじちゃん、どうやったらこんなカッコいい乗り物乗れるの?』  おじちゃんは子どもの純粋な質問にバカにしなかった。  ――うんと勉強して、免許を取ったら乗れるようになる。お家を作る仕事はお勉強ができないとだめなんだ。お家が壊れないのも、快適に過ごすためにも、それに至るまでの知識がないとダメなんだ。だからしっかり勉強するんだぞ。  おかげで地元の国立大学の建築系の学部を卒業できた。
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