1章

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 家族上手くいってるつもりでいたのか。妻が思うような親になってなかったのか。  残業はある時はもちろんするが、ない時は早く帰りたがる社員と競争するかのように、会社の出入り口のゲートで、社員証タッチして帰っていた。  時々社員証の反応が上手くいかなくて、センサーのエラーが出てしまう。受付の警備員のおっちゃんに「あんた慌てすぎ。早く帰りたいのは分かるけど」と苦笑いされる。  おっちゃんも家族がいるから気持ちは分かると言われた。  娘があと数年もしたら「パパと洗濯一緒にしないで」と言われるんだろうなと。そうならないようにそれまで愛情たっぷりに接していた……つもりだったのに。どうもそれが伝わらなかったらしい。  所詮は自己満足だったのか、独りよがりだったのかと思うと虚しくなる。  落ち着く為に冷食のパスタを食べながら、テレビを見る。味が分からない。食欲がなく、食べるスピードが遅い。
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