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01.拷問
「エリク王子様のお遊びは、私より度が過ぎるだろうな」
王国騎士団長が、俺を憐れんだ目で見るのが許せない。地下牢の拷問部屋で剣で腹に穴を開けられた。両腕を縛られて天井から吊るされているので抵抗はできない。咳ばらいをして何とか耐える。この程度で泣きつくほどやわではないつもりだ。仮にも魔王を倒した勇者なのだから。
騎士団長が譲るように下がって、代わりに嬉々とした足取りで現れたのはエリク王子だ。今日何回目だと罵ってやろうとした矢先、鞭が飛んできた。息を止めて耐える。恐れ多いことに、この異世界ファントアのリフニア国のエリク王子様の娯楽がこれだ。背中に走った痛み。身体をよじって、なんとか紛らわせる。すると、美しい金髪をなびかせて、俺の目の前で汚いものを触ったとばかりに手を払うそぶりをする。
「貴様の銀髪を赤に染めてやってるんだ、感謝しろ。ただの異世界人が僕より英雄になることなどあり得ない。そうだろうキーレ?」
いいかげん覚えろ。俺は、喜入晴彦だ。リフニア国にて、銀髪の勇者として召喚された。ここの人間は俺の名前が上手く発音できずキーレと呼ぶので、好きに呼ばせておいたけれども。転移したことで俺の外見は変わり、運動神経もよくなった。王子と国王の依頼を嫌々承諾したが、旅をするうちに女の仲間も増えて楽しくなってきたので速攻で魔王を倒すことにした。有言実行。なのに、どうしてこんな目に……。
エリク王子の愛用する鞭は幾度となく俺の肩を砕いた。背中のみみず腫れにも飽きたのか、面と向かって振り下ろしてくる。乾いた高音と自身の肌の裂ける音。悲鳴を上げることは絶対にしないと誓ったが、さっきと勝手が違うので押し殺していた声が漏れ出てしまった。エリク王子は気をよくして、一旦、手を洗いに行った。再び戻ると今度は今までみたことがない鞭を用意してきた。竹? じゃないだろうか。
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