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02.竹の鞭
「これはね、この国にはない植物でなかなか探すのに苦労したんだよ。何でも東方の地に生息する木材に似ていて、加工品としても優れているんだよ。それをわざわざ、君のためだけに取り寄せたんだ。そう、君の肉を打つためだけに」
しなる鞭。歯を食いしばっても叫んでしまって、胸板の皮膚が裂けたと分かった。しかも、異物感がある。鞭としての効果だけでなく打たれたところに棘が残っている。皮下に食い込んで、その上からまた同じ軌道で鞭が届いたときなんかは赤黒くなって肉に埋まっていく。俺は血反吐を吐いて、泣く泣く今日はこれぐらいにして下さいと頼み込んだ。涙だけは出すもんか。だけど、自分の声が非力で、それがエリク王子に快感をもたらすことが分かっているだけに、喉が焼けるみたいに辛い。
「泣き叫んでもらわないといけないからね」
俺は半目を押し開けて睨んでやった。王子のその傲慢な態度を見ると、抵抗しなければならないという意識が自らの頭を殴りつけてくる。
「誰が泣くか」
ぼそりとつぶやいた。俺の腹を容赦なく王子は鞭打つ。息を止めるつもりが、竹の先端が腹を殴打したので思わず叫ぶ。また、胸を容赦なく叩きつけてくる。声にもならない声が押し出される。悶絶していると、エリク王子は薄ら笑いを浮かべた。
「これで、このファントアの世界を魔王の手から救ったとか笑わせてくれる。魔王亡き今、この世界は僕の手にあるというのに、何を英雄気取りしているんだか」
周りの民が俺を誉めそやしただけだ。お前だって魔王を倒してこいと俺を送り出した張本人だろう。
もう何時間経っただろう。いつもなら、飽きて床に就くころ合いなのに。ひどく長く感じる。
「さあ、泣け! その命がある限り、お前は僕のために泣き続けるしかない。分かるか? お前は僕の所有する新しいおもちゃだ。壊れないおもちゃだ。壊れないよね?」
王子としての職務を放棄してもなお、俺を拷問することには畏敬の念さえ抱いた。満月が空高く昇っている。鉄格子からほのかに入り込むほの暗い明かりが拷問を終わらせてくれると信じた。だが、俺は叫ぶことしかできない。もう、自分の意思や王子に対する不平不満を告げることができないくらいに痛めつけられていた。
エリク王子が情けない悲鳴を上げる。どうせ、シルクのブラウスに返り血がついたことで動転しているのだろう。
「ま、またかけたな? 僕はお前のために何回、服を新調したと思ってる?」
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