58人が本棚に入れています
本棚に追加
03.もう愛していない
そう言い残し、鞭打ってから手を洗いにいく。やっと終わった……。俺は天井に吊るされたまま気を失っては、疼痛や鈍痛で覚醒を繰り返した。
朝の小鳥の呼び声に、朦朧とした意識で応える。拷問好きの変態王子め。絶対に殺してやる。一度や二度殺したぐらいでは満足できない。後悔させて、懺悔せざるを得ない状況にした上で殺してやる。俺は、自分を不幸だとは思わない。ただどうしても許せないことが一つある。
今こうして俺が苦しんでいる間、もしかしたら俺の恋人のマルセルはエリク王子と眠りについている。俺はマルセルに捨てられた。でも負け犬なんかじゃない。どこが間違っていたんだ。俺と王子の何が違う。容姿? 権力? それとも力か?
俺と王子はどちらもクズだ。この世界に来る前の俺は地味だった。だから、こっちの世界でははめをはずして、マルセルと寝た。マルセルは回復師として、俺と約一年も魔王討伐の旅を共にし、何度身体を重ねた? それなのに、マルセルは俺を裏切った。俺のことなんてすっかり忘れて栗色の髪を王子に触らせているのか? 白い肌も? 太すぎず細すぎない張りのある足も? なだらかな丘のような腹も? 包み込む優しさを持つ二つの胸の谷間も?
マルセルの甘い声を思い出そうと喘いだ。再び途切れる意識。暗闇から逃れるように押し開けた目に自分の首についた鎖が見える。首輪がついていた。看守が俺をこづいて歩かせようとしたが、足腰立たなかった。背中の皮膚が剥がれる音がして、痛みを感じた。処刑場へと引きずられている。大きなどよめきと群衆の歓声が聞こえる。
積み上げられた木材を眩しい太陽が称えている。処刑場にはかつての魔王討伐の旅を共にした仲間たちと、マルセル姫の姿があった。俺のマルセルは王子に肩を抱かれている。
エリク王子が合図して、元仲間が俺に松明を持って近づいてくる。俺は火あぶりにされた! 喉を潰して慟哭した。
焼けただれていく皮膚の痛みや、朽ちていく己の身を嘆いたんじゃない。マルセルの緑色の瞳が、俺をもう愛していないことに絶望したんだ――。
最初のコメントを投稿しよう!