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「お疲れ様です! 今日はずいぶんと早い帰宅ですね。プルーストの原稿、無事仕上がりました?」
エドモンは現在、マルセル・プルーストという作家の担当をしているらしい。社交界にも出入りするパリ生まれのぼんぼん作家だ。金持ちだし同性愛の気があるからとエドモンから紹介されそうになったこともあるが、丁重にお断りした。二十近く年上の男なんてさすがに勘弁してくれ。
「うん。お陰様で、今月中にはどうにかなりそー。それよりもアダムぅ、何だその肩乗りにゃんこは。可愛いじゃないかぁ」
エドモンは目尻を下げコトンの顎の下をくすぐった。さっきの食料品店のオヤジとは違い、コトンはおとなしく撫でられている。かすかにゴロゴロという音までする。
いくらエドモンが仕事のできるイケメンだからってその掌返しは反則だろ!
「ええっと、今日からうちで飼うことになりまして。コトンって名前なんです。何も食べさせるものがなくて、食料品を買い出しに行ってきたところで」
「アダムって猫好きだったのか。俺も飼いたいんだけど嫁さんがくしゃみ止まらなくなるんだよなぁ。こんど出版社に来るとき一緒に連れてこいよ」
すると俺より先にコトンが返事をした。
「わぁい、ぜひアダムさんと伺います!」
「おいこの猫、返事したぞ! そうかぁお前、フランス語がわかるのかぁ」
エドモンの指先にくすぐられ、コトンがゴロゴロ喉を鳴らす。
「はい、僕はフランス語が得意なタイプの猫なんです! 今後ともどうぞ僕とアダムさんをよろしくお願いします!」
なぜ会話が成立しているのだろう。仕事のできるイケメンは猫とも会話ができるのか。
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