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coton
いい加減、腹括って帰ってやれ、馬鹿息子。
と、その手紙には書かれていた。
差出人は地元の幼馴染みのポール。俺が十八でシャンパーニュの片田舎からパリに上京して以来、もうかれこれ六年会っていない。
ポールは昔からいい奴だった。俺に届く手紙のほぼすべてがポールからの手紙だ。
大きなため息を吐きながら手紙を机に置き、振り返る。その瞬間、予想もしない光景が目に飛び込んできて、ギャッと短い叫び声を上げた。
「アダムさんですよね! 会いにきました!」
少年の丸い両眼がきらきらと輝く。その瞳はなぜか左目がブルーで、右目がゴールド。髪はクルクルと渦を巻く白に近い銀髪で、耳が、耳が――
ピンク色に透ける耳が、猫みたいに、頭の上に乗っかっていた。
「――ちょっ、ちょっ、ちょい! アンタ誰!? どこから入った!? 何その耳!」
質問が追いつかない。混乱状態のまま、部屋のドアを確認する。
帰ってきたときに鍵は閉めたはずだ。じゃあ窓から入ったのか? たしか隣は売れない役者だったはず。あ、それだ! 劇団の仲間! この子、猫ちゃん役だ! この付け耳、そうに違いない!
「君、窓を伝ってここに忍び込んだの? そんなことしちゃダメだよ、落ちたらどうするつもり? いくら猫ちゃん役に熱心でも、ちょっと役に入り込みすぎだからね!」
窓?と小首を傾げながら、猫ちゃん役は窓の方を振り向いた。背を向けた白いポンチョの裾から真っ白い尻尾が覗いている。それが生き物みたいにうねうねと動いた。
へえーすごい。尻尾も本格的。でも、どうなってんだろ、それ。
よくできた尻尾に気を取られていると、猫ちゃん役は振り返り、平然と言った。
「窓から入った記憶がありません! そもそも僕、どうやってここに来たんでしょうか?」
その言い種にズッコケた。
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