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おいおい、記憶喪失の猫ちゃん役かよ! さては役に没頭するタイプだな!? まさか天才演劇少年ってやつ!?
「君、とりあえずこの部屋から出て行きなさいね! 演劇の練習なら隣でやって! 公演頑張ってね!」
猫ちゃん役を玄関の方に向かせ、その背中を押しやろうとした。だが次の瞬間、その手応えがふっと消える。
なんと猫ちゃん役は鮮やかにバック転を決め、俺の肩に飛び乗っていた。
あまりの軽技に唖然とする。うっそ、もしやサーカス団の方だった?
「ちょっと、君! こんな狭い部屋でバック転なんてやらないで! 危ないでしょ? ほら、お兄さんから早く降りなさい」
「嫌です! 僕はアダムさんに会いに来たんです! 追い出そうとするのやめてください!」
猫ちゃん役の身体を引き離そうとするとシャツに爪を立てられた。もおお、爪くらいちゃんと切ってやりなさいよ、サーカス団長!
なかなか肩から降りようとしない猫ちゃん役と格闘していると、突然ドカドカと部屋のドアを叩かれた。
きっとサーカス団長が迎えに来てくれたんだ! ああ助かった。この子、猫役が憑依するタイプだから、周りがもっと気をつけてやらないと――
猫ちゃん役を肩に乗せたままドアの鍵を開けると、勝手にドアが勢いよく開いた。そこに現れたのは、残念ながらサーカス団の団長じゃなかった。
ウエストが悲鳴を上げている花柄のワンピース。わずらわしそうにひっつめた癖の強い赤毛。そばかすの多い丸々とした不機嫌そうな顔――お馴染みの大家のローズおばさんではないですか。
どうやら屋上で洗濯物を取り込んでいたらしく、古い洗濯カゴを片腕に抱えている。
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