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「君さ、名前は何ていうの?」
名前?と猫少年はぽつりと呟き、何やら遠い目をした。
「……あったような気もするんですけど、忘れちゃったみたいです」
そうか、たぶん野良だもんな。小さい頃に捨てられたか、親猫とはぐれたか。ちょっと悪いこと聞いちゃったかも。って、すでにこの子を猫として受け容れている自分にビックリだわ。
「もし名前がないんなら、俺がつけてやろうか?」
同情心から思わずそう提案すると、俺を見上げる青金の瞳がパッと輝いた。
「わぁい嬉しい! アダムさんが呼びやすい名前でいいですよ! 名前つけてもらうなんて僕、アダムさんの飼い猫って感じですね!」
ああーしまった。これは完全に飼う流れ。うん、でも、まぁいいか。ひとり暮らしだし。恋人もいないし。最近ちょっと寂しいなって思ってたし。家賃は3フラン上がって痛手だけど。
なぜかすごく俺に懐いてるし。その上可愛いし。
試しにその白くてフワフワした頭を撫でてみた。すると人間の姿のどこからから、猫が甘えるときのゴロゴロという音が聞こえてくる。おお、本当に猫みたいだ。あー悪くないな。癒される。
「そうだなぁ。白くてフワフワだから…………コトン!」
その名前を聞いた青金の瞳が、驚いたように真ん丸になる。コトン――つまり綿という意味だ。
「……コトン! そういえばそれが僕の名前だったような気がします! アダムさん、よく知ってましたね!」
コトンはどうやら単純な性質らしく、すっかりそれを元の名前だと思い込んでいる。綿なんて人間につける名前じゃないけど、白猫だからこんなもんだろ。
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