dream

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「ねえ君、お腹減ってる? ところで猫って何食べるの? パンはちょっと固いよね? ハムでも食べる?」  尋ねながら戸棚を開ける。しまった。もうハムがない。残りのパンにも黴が生えていた。 「……しゃーない、買い物に行くか」  そう独り言つと、コトンがぴょんと背中に飛び乗ってきた。 「僕も一緒に行きたい! お買い物!」  改めて確認すると、たしかに人間の少年らしい重みがない。目を瞑ってみれば、小さな猫が一匹乗っているような感覚だ。  やっぱり猫なのか。じゃあ俺の頭がおかしいってことで決まりだな。  財布を内ポケットに入れ、コトンを肩に乗せたまま部屋を出た。モンマルトルの石畳の坂道を、商店の集まる通りへと歩いていく。コトンの尻尾が首に巻きついて少しくすぐったい。  すれ違う人がみな笑顔で振り返る。「見て、猫よ」「肩乗り猫」「可愛いなぁ」と俺たちを指差し笑みをこぼす。突然人気者になった気分だ。無意識に下手な口笛まで吹いていた。  猫を肩に乗せているだけで、世界が俺に優しい目を向けるなんて。猫は偉大なり。猫よ永遠なれ。  馴染みの食料品店に入ると、店主のオヤジが俺を見て、恋に落ちた乙女のような顔をした。うーんこれはちょっと気色悪い。 「アダムぅ、そのにゃんこどうしたんだ。かぁわいいなぁ。どれどれおじちゃんのところにおいでぇ」  そう言いながら手を差し出すと、コトンがシャアアーと白い髪を逆立てる。 「ありゃあ、ちょっと臆病だねぇこの子。まぁちょっとずつ慣れるだろ。また連れておいでよ、この子の分おまけてしてやるからさ」  オヤジは気前よく紙袋にサバ缶とハムをもうひとつ詰め込んでくれる。猫のおかげで得をした。猫は偉大なり。猫よ永遠なれ。
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