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エピローグ
「明石さん」
「はい?」
仁はいつもの制服姿。午後の本部廊下で彼女を呼び止めた。
「そのトレーナー、前後ろ逆じゃないですか?」
「あれ?本当だ……」
舞香はキョロキョロして自分の服装を点検し、照れ笑いをすると「トイレで直してきます」と言って、廊下の向こうに消えて行った。
見送った仁は頭をかく。
「なんか、抜けてる所のある人なんだよなあ」
もう3月。舞香は元気になり、ブルーフェニックス本部調理部でアルバイトをしていた。料理スキルが高いのが評判で、正社員になれると噂が立っている。
ブルーフェニックスは被害者のsnsから個人を特定するが、そのsnsでも彼女は成功し、現在ネットで人気を博していた。
舞香は、トイレに誰もいなかったので、化粧鏡の前でトレーナーを脱いだ。上半身、赤い下着一枚になる。
その時、トイレ個室から人が出てきた。凪だった。彼は上半身制服を半分脱いでおり、機械的なデザインのインナー一枚。
「痴漢!」
「いや、違うでしょ?」
舞香はトイレを出て走り出す。
「助けて痴漢!痴漢がいる。ちかぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「ちょっとぉぉぉぉ?!」
凪が彼女を追いかける。
「手を洗えぇぇ!」
「わーっ、ゴキジェットだー!」
現場に駆けつけた仁に、殺虫剤で追いかけ回され、凪は悲惨な目に遭っていた。
「ごめんなさい」
「御門君、許してあげましょう」
仁のそばで舞香が凪に頭を下げており、第三部隊のママ的存在、凉子が場をおさめていた。凉子は長いウエーブヘアを後頭部で編み込みにしている。
仁が話を聞いてみると、間違えて男子トイレで着替えていたのは舞香の方だった。
「笑い事じゃないよ」凪は口を尖らせて答えた。
仁は言った。
「お前、まだ特殊装備だったのか」
「ちょっと右手の所が壊れてさ、直してもらっていたんだ」
凪の右袖にテーピングがしてある。舞香はインナーと間違えたようだが、隊員が制服の下に着る特殊装備だ。
これを着てると集団ストーカー側の電磁波にひっかからない。盗撮盗聴データにも残らない。被害者の家に集団で押し掛けても気づかれないのだった。
ついでに白蛇花魁を演じたのは例によって凪。天性の役者なのだが、彼はコスプレしていない時の方が恐いと言われる。
(終わり)
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