27人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
どうでも良さそうに呟いたアサトは、彫りの深い顔をした男前だ。複数の人種の血が混じり合ったようなエキゾチックな雰囲気を醸し出しているが、出自を詳しく尋ねたことはない。少し顔にかかる髪は波のようにうねり、彼の容姿を鮮やかに彩っている。
「あ、ミチル……目のレンズが汚れてるぞ。拭いてやるからじっとしてろ」
アサトの手が僕の顔に伸びて、眼鏡拭き用の小さな布で目を磨いた。
機械の単眼だ。
以前Dによって視力を奪われた。カラー画像に対応していない為、色を認識出来ない世界に僕は生きている。
それについてあまり不便はない。どうせ、景色を味わうようなことは出来ない状況だ。モノアイとは言え距離感もわかる。
そんな少し風変わりな見た目をした僕にとってアサトは、とても不釣り合いな男だった。
「綺麗になった。あまり触るなよ」
「触ってないよ」
「指紋がつくと汚れるからな」
「触ってないって」
アサトは大体30手前の年齢だと自分で言っていた。その辺が曖昧なのは、世界がこうなってから年を数える習慣がなくなったからだ。僕にしてみたところで、自分の年齢をはっきりとは知らなかった。
年を数えることに、さほど意味はない。いつだって死と隣合わせだ。
最初のコメントを投稿しよう!