62人が本棚に入れています
本棚に追加
見上げた若菜はぼんやりとした目で私と三井さんを見比べて。
「あのね、聞いてくれる? 紗英ちゃん」
さっき鍵を出した時みたいに、鞄の中から若菜が出したものはサバイバルナイフ。
三井さんもそれに気づいたらしく、身動きできない体を必死に揺すって逃げ惑うように首を振る。
ただ若菜の持つナイフの向きは、ゆっくりと私の方に向けられた。
「昨日ね、漣くんと連絡つかなくてね? それで私来たじゃない? ここに」
ニコリと笑った若菜が、ナイフの先で刃を立てないように私の頬を優しく撫でる。
「漣くんに、合鍵ちょうだい、って言っても全然くれなかったの。付き合ってもう1年だよ、なのに! 来るときは必ず連絡してって言うし、私だってバカじゃないから、変なのはわかる。だから、そっと合鍵を作っておいたのよ、何かあった時のために。でね、昨日ここに来たら今日みたいにカーテンは閉まってるしね、本当に漣くん留守なのかなあ? 寝坊してるんじゃないの? て、開けちゃったの」
その後の光景は想像がつく。
若菜は目元は笑っているけれど、唇がワナワナと震えていた。
「三井さんと漣くんがね、ベッドで裸で眠っていたの。二人でね? 抱き合うようにして! おかしいでしょ? おかしな話でしょ? そういうのって、彼女以外とすると思う? 私、漣くんを問い詰めたの! どういうこと? って。でもね、気付いたら漣くん、何も言えなくなっちゃって。ほら、」
若菜がクローゼットの右側の扉を開けた瞬間、バタンとこちら側に向かって倒れ込んできた、人。
「いやっ!!!」
私のすぐ側で裸で倒れ込んだ男、それは漣だった。
最初のコメントを投稿しよう!