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会議室を一瞬にして炎が覆いつくした。
イスに縛られた私は、あっという間に火焔に包まれた。
(……今日は、一段ときつい……)
じりじりと伝わる熱は、低温火傷したみたいにゆっくりと手足の皮膚から進行して、私の内部に染み込んでいく。じりじりじり、と喉の奥を焼き、内臓まで燃やしていく。
「今年のノルマを真剣に考えているのは、俺だけか? え?」
放火した主は、口から飛沫とともに炎を飛ばしながら、じろりとこちらを見回す。地球を滅ぼしに来た謎の宇宙軍の、ゴリラを模したボスみたいだ。顔がしかくくて、厳つい。木目のように縦じわを深く眉間に刻んでいる。
拘束されているのは私だけじゃない。コの字型に並べられた座席、全員が固まっている。 すっかり焦げてしまった自分の両手を見つめ、焼け野原になっていく会議室をちらりと見れば、ボスゴリラはぎらりと眼光を光らせた。
(来る)
怒号の合図だ。
「本気で売上達成しようと思ってんのか、やる気あんのか、なぁ?!」
ねちねちとした口調から一転。
怒鳴り声とともに、四角い顔から火の玉が飛び出してくる。ボールの火炎を、四方八方に投げ散らす姿は、ヒーロー映画の悪役キャラだ。
「お前らが頑張らないのは、部長の俺の責任か?! ええ?!」
ボスゴリラ、もとい、大貫本部長がめいっぱい怒号を飛ばすと、四方を包む炎は黒炎となって立ち昇り始めた。
隅の座席で一言一句、パソコンで書紀をつとめる私は丸焦げになった自分の体から、音を立てないようにそっと煤を落とす。
(これがパワハラ)
まさか入社二年目にして、自分の会社がそんな体質だとは思いもしなかった。
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