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「先月からやってきて、成果はそれだけか?!」
開始早々、大貫本部長の怒りは最高潮に達した。
先月と同じように会議室は燃え盛り、窓際のカーテンはオレンジ色に巻き上がり一瞬で落灰になる。各店の店長達はイスに縛られ、人柱になった岩本店長を煙の向こうに見ながら黙っている。本部長の隣に座るチーフも口を挟む間もなさそうに、頭を垂れて、ボスゴリラの一言一句に頷いている。
パソコンキーボードの上で動く自分の指が、焚き火にくべられる枝のように赤黒く染まっていく。指の骨がぼきぼきと折れていく。胃や腸は殴られ、炙られ、じりじりと痛みが私を包んでいく。
「岩本店長、ちゃんと聞いてるのか?!」
「はい」
「はいって……岩本店長さ、本当は聞いてないだろ? 俺の話うるせぇな、って思ってるだろ?! だから一ヶ月間、なんも成果出てないんだよ?!」
勢いを増した火の玉が、岩本さんを突撃していく。
(……痛い)
人形のように黙った岩本さんは、皮膚が爛れて飛び出た内臓が燃えながら、苦しそうに縮んでうごめいている。固まった顔は、はにかんだままだ。
(痛い。……すごく痛い!)
体に染み込んでくる岩本さんの痛みを感じる。ボスゴリラの火焔は止まらず体当たりしてくるのを、私は自分に舞う煤を払うのを忘れていた。
「岩本店長さぁ。いつもへらへらしてるから駄目なんだよ!」
ボスゴリラの鼻の穴が大きく開いた。
焦土と化した会議室にぷすぷすと焼け焦げた人形が並び、鬼の首をとったように息巻いたゴリラが睥睨している。
(……必要ない)
焼け野が原に、青い炎が立ち上がる。すると、呼応するように氷の粒がちらちらと降り出した。
キーボードを打つ指を強め、氷の発生源を見ると、音もなく私は頷き合った。
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