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「来月には、店長達の本気が見れると期待しているよ」  二時間強の会議終わり、息巻いていた大貫本部長はすっかり燃え尽きていた。動物園の檻でしゃがむゴリラのように、ぐるりと室内を見回すと、 「じゃ、あとはチーフ、エリア長任せたから」  興味ないように手を払った。  土気色にくすんだ巨体がドアへ歩いていくのを、手元のパソコンの画面をちらりと見て、私は手を上げる。 「本部長、すみません。――一点、確認させて下さい」  怒りに任せてボスゴリラが撒き散らした炎は、海のように青く広がる火に食われ、消えていく。  しんしんと青く、炎が広がっていく。 「ん、武田さんか。議事録あとで全員に送ってくれな」 「はい。議事録のことで質問があります」  大貫本部長は重そうな体をゆらりとこちらに向ける。岩本さん、チーフや他の店長達の視線を浴びながら、自分の中から燃え盛る青い火で、ゆっくりと厳しい巨体を包囲する。  はじめての感覚に、私の体はふるえている。赤黒い燃えカスを、青く青く包んでいく。  炎は、赤よりも青のほうが高温だ。 「すべて記録させていただきました。さきほど、岩本店長の報告に対しての発言も、すべてです。  こちらを全員に配信させていただきますが、宜しいでしょうか」 「――そ、それはっ!」  頭に昇っていた血がやっと降りてきたのか、ゴリラのような顔は紫色に染まっていく。でも、もう遅い。  「岩本店長の顔付きなどについて言及されていました。本来、業務と無関係のことと思われますが、一言一句漏らさずに、との本部長のご指示でしたので。会社の一員として、しっかり記録させて頂きました」  息を呑む店長達の視線の間から、やわらかな氷の気配を感じとる。東原エリアの美しくつめたい瞳に、私は頷く。 「私からも失礼します。大貫本部長、さきほど不適切な発言が含まれておりました。偶然なのですがこのあと私、人事部長と面接予定ですので、報告させていただきます。  以上です」  雪の女王のような氷点下の眼差しを東原さんに向けられ、ドアの前でボスゴリラ・大貫本部長は硬直した。
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