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 全国知名度が高く、主要駅前のショッピングモールにはテナントを構えるアパレルブランドを屋台骨とした会社に、二年前入社した。  見えない炎を避けるため本社事務職を希望し、配属された一年目は穏やかに過ごせた。本社勤務は、とにかく収入源である前線――店舗のサポートに徹する。売上管理から庶務までとにかく影に徹すればいい。そのせいか、上司にはほとんど怒る人がいなくて助かった。必要最低限のやりとりしかない。  月に一度、本社ビルに全国各店のスタッフが集まる会議を横目に、私はもくもくと働いた。  この四月、辞令で新しく部長に就任したボスゴリラ、もとい大貫本部長が来て、事態は一転した。 「本社組も仲間なんだから、売上達成に向けて一丸と頑張っていこうな!」  朝礼で自己紹介してそこそこに、土気色した四角い顔は弾むように言って、私や本社勤務組を舐め回すように眺めた。 「今やうちは、同業他社の中でトップクラスの売上を誇っているからね! 僕が就任したからには、みんなに売上を達成してもらって、トップ企業のいち員として胸を張ってもらいたい!  そのために、まずは月一会議に、本社メンバーも参加してもらおう! 意識の共有な! そこで、えーっと……君!  武田くんかな? 君、店長会議で書記を頼むね!」  先輩方の憐れむ眼差しを受けた。  売上こそすべて。業界一位死守こそすべて。〈関東エリア・店長ミーティング〉という名の会議で、大貫本部長は冒頭から息巻いた。  書記を任された私は、一言一句もらさぬよう必死でタイピングしていると、店舗ごとの報告にさしかかった時、室内の温度は急上昇した。月ごとの売上目標が未達の店長を標的(ターゲット)に、大貫本部長は喰らいかかった。
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