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「武田さんは初めてだよね、この会議参加するの? ……びっくりしたよね。大丈夫?」
「……私は大丈夫です。それよりも、岩本店長のほうが……」
「俺は慣れっこだから」
岩本さんははにかんでみせる。埼玉店の先月の報告に、ボスゴリラはこれでもかと怒りの炎を浴びせていたのを、事も無げに声を潜める。
「いまどき、パワハラとか、驚いちゃうよね? 顔色悪いね、武田さん本当に大丈夫?」
――こんな目標も達成出来ないとか、お前入社して五年間なにしてたんだ!
理不尽な怒号を受けたにも関わらず、岩本さんは私の心配ばかりしている。
「医務室使わせてもらう? 無理しないほうが良いよ」
「岩本店長、あの」
「ん? しんどい?」
「……いえ、岩本店長は大丈夫なんですか」
「まー、店長は怒られるのも仕事だからね」
燃え尽きた春物シャツ姿の岩本店長は力なく笑いながら、その顔を炎にあぶられて、皮膚がドロドロに溶け落ちている。めくられた表皮の奥に、スーパーに並んだ精肉のように赤い肉がだらりと爛れている。
勿論、私にしか見えない。
(後輩の私に気遣って、無理してる。……本当は、こんなに痛そうなのに)
「岩本店長、どうしました? あら、武田さん顔色が悪いわね」
焼け野が原になった会議室に、ひゅう、と冷気が運ばれる。先程までチーフと話し込んでいたエリア長が、こちらにやってくる。
売上未達の店長達が丸焦げの中、無傷だ。
「東原さん、武田さんを医務室に連れて行こうかと」
「……岩本店長は医務室案内のプロね」
入社五年目にして最速でエリア長に昇進した東原さんは、白くなめらかな肌で、雪の女王のように悠々と返す。
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