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 本部長からレジュメの印刷と配布を任され、 ホチキス止めしたプリントの束を抱え、本社4階の会議室へと向かう。  ペーパーレス推奨でタブレットが会社のスタンダードなのを、「モニターより紙の文字のほうが、ちゃんと頭に入るんだよ」と大貫本部長が断行した。「店長達には、自分の仕事きっちり認識させないとな」と。  本部長が指揮を取って2ヶ月弱、本社での空気がピリピリし始めた。出勤時は「今日も皆、宜しくな!」と機嫌よくボスゴリラは笑顔を向けたものの、午前の役員会議に参加して戻ってくると、気圧が急降下する。ぶつぶつと文句を言いながら、店舗ごとに電話をかけては「現場の調子はどう?」「売上達成できそう?」と、威圧的に繰り返す。事務職の先輩方は触らぬ神に祟り無し、と自分が与えられた仕事に集中して、殻を閉じた貝になった。  静電気のような反発がパチパチ起こるのを頭上で感じながら、私は必死で仕事に集中する。 「岩本店長、やる気あんのか?」  受話器に噛みつくボスゴリラの口から猛火が吐き出され、フロアに飛び散るとぷすぷすと私のパンプスのつま先を焼いた。  デスクにプリントを置き終えたと同時にドアの開く音がした。岩本さんが会議室に入ってきた。 「お疲れ様。武田さん、調子はどう?」  手を上げて力無くほほえむ姿に、一ヶ月ぶりに会えた嬉しさがしぼんでいく。明らかに青い顔をしている。 「岩本店長、顔色が……」 「ん?」  笑うと目元に皺が寄った。少し痩せた気がする。 「……本当に、大丈夫ですか」 「あれかな? 最近、よく絞られてるからかな。ははは。まぁ、売上達成していない自分が悪いんだけどね」  自虐的に笑って見せ、「叱られても仕方ないよね」と続けた。 (……叱られても仕方がない、なんて)  そんな理不尽なことあるんだろうか。 
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