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私は魔王、魔族達からは怒らぬ王と呼ばれている。魔王と呼ぶと王族のように聞こえるが力を何よりの誉れとする魔族にとって、ただ一番強い者というだけだ。
別に私は魔王となろうとしたわけではない、生まれた頃からそれなりの力があり、それを妬み、私を倒そうとやってくる。それを返り討ちにしていただけだ。そんなことを繰り返すうちに、気が付けば私を恐れる者が増えた。私に取り入って自身の身を守ろうとする者が増えた。私の気を引くために城を用意した者もいれば、多数の部下を率い配下に置いて欲しいと申し出る者もいた。
特に悪い気はしなかったし、火の粉が出るのであればまた振り払えばいいだけと全てを承諾していった。そして気が付けば魔王軍が生まれていた。
しかし私は何もしなかった。誰かに指示をするわけでもなく、魔族は魔族で自由に暮らすものだと考えていた。
私が自身で進んで行うことと言えば生物系魔族の観察ぐらいだ。これはもはや趣味の領域であった。虫系・獣系・無機物系などの会話が出来ない魔族は気に入っている。特に最近であれば本来は茶色であるはずのウルフ族に真っ白なものが生まれてきていた。私はこれをスノウウルフと名付け、大切に見守っていた。
しかし悲劇は起こる。魔族をよく思わない人間達の襲来だ。奴らは勇者と名乗る者を中心に侵略を始めていた。時折別の土地を治めていた魔族がやられたと部下から報告される。当然、負けるような力の無い魔族が悪いと思っていた。
そしてついに人間達は私の逆鱗に触れてしまう。人間達は希少性の高さからスノウウルフを狩り始めたのだ。その毛皮は人間達の間で高値で取り引きされ、ついにスノウウルフは絶滅した。
私は怒りを覚えた。考えてみれば弱い者が負けたという魔族では当たり前の事であったのだがこのときばかりは冷静さを失った。魔王軍を動かし、本格的に人類の撲滅を図った。
弱い者は絶滅して当然。それは人間達がやったことと同じ、因果応報だ。
そして魔王は人間達を絶滅に追い込んだ。そしてひと仕事終えた満足感と安心感から眠りについたと言われる。それが300年前の出来事だ。
しかし人間達は絶滅していなかった。魔族達に対する怒りを忘れず、生き残った者達は細々と暮らし生活を整えていった。魔王の攻撃が無くなった今は驚異となるものは少なかった。徐々に人数を増やし、月日が経つにつれ以前の生活を取り戻していった。
そして300年経過する。大地が震え、魔族達が騒ぎはじめ、魔王が目覚めようとしていると人々は肌で感じ取っていた。過去の出来事を学んできた人々は怒り、そして雪辱をはらすため今回は大規模な軍を用意し、先攻部隊となる光の加護を受けた勇者達が魔王討伐に向けて旅立った。
大規模な戦いの後、ついに人間達は勝利を収めた。魔族達も姿を見せなくなり世界は平和になったのだ。
しかし魔族は滅んではいなかった。人間達に対する怒りを忘れず、そしていつの日か強い力を持った魔王が生まれたときのため細々と生活し力を蓄えているのだ。
そんな中、人間と魔族の戦いから逃れた小さな島ではスノウウルフ達が平和に暮らしているのだった。
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