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大きな声を聞きつけ、不安に周囲を見回していた伊織は声のする方角を見やった。
栗色の癖毛の、丸眼鏡をかけた男性が子供のように大きく手を振っている。その手を置いたテーブルを挟んで、こちら側に背を向けて座っている人影もある。
「伊織さん。年甲斐もなく手をぶんぶん振っている方が田山花袋くん。
あと知らん振りを決め込んでる方が徳田秋声くんだよ」
手を引きながら、藤村と呼ばれた仄暗い空気の青年はそう紹介する。
「おいおい、藤村くん! その紹介はないんじゃないの!?」
花袋は慌てふためいた様子で、テラスへ上がって来た藤村の頭に腕を回しホールドした。その耳元に顔を寄せ耳打ちする。
「とっても穏やかで理知的でハンサムな人だって言っておいて」
しかしいかんせん声がはっきりしていて、目前の伊織の耳にも明瞭に聞き取れてしまう。
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