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秋声は小さく溜め息をついた。
「知らない」
「えっ?」
伊織は目を瞬く。
藤村は『僕が連れてきた』だの『徳田くんに叱られた』だの言っていたから、この秋声──徳田秋声と紹介された彼も事情を知るものだと思っていた。
「えっと……じゃあわたし、帰りたいんですが……学校も遅れちゃうし」
秋声が気まずげにうつむいた。
「それはできないよ」
ふいに、花袋とプロレスもどきをしていたはずの藤村が静かに言う。
「え……」
伊織は強い語気に言葉を失ってしまった。
「できないんだよ」
何故、と問う隙も見せずに、藤村は静かに繰り返す。
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