16/21

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
 秋声は小さく溜め息をついた。 「知らない」 「えっ?」  伊織は目を瞬く。  藤村は『僕が連れてきた』だの『徳田くんに叱られた』だの言っていたから、この秋声──徳田秋声と紹介された彼も事情を知るものだと思っていた。 「えっと……じゃあわたし、帰りたいんですが……学校も遅れちゃうし」  秋声が気まずげにうつむいた。 「それはできないよ」  ふいに、花袋とプロレスもどきをしていたはずの藤村が静かに言う。 「え……」  伊織は強い語気に言葉を失ってしまった。 「できないんだよ」  何故、と問う隙も見せずに、藤村は静かに繰り返す。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加