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「自然主義のやつらが、厄介を起こしたらしい」
「あはは」
「あはは、で済むかい。とあるお嬢さんを、正規のルートを介さずこっちに連れてきたって話だ。徳田さんに問い合わせたが、どうやら本当らしい」
そこで初めて、武者が顔を上げた。不思議そうに小首を傾げる。日に焼けた焦げ茶の髪が、ふわりとわずかに揺れた。
「徳田さんがやったってこと?」
「いんや。当の犯人は明かしてもらえなかったが、俺は島崎藤村か国木田独歩だと睨んでるね」
「志賀、決め付けはよくない」
むくれた声で諭す武者に、男──志賀は、ふっと低く笑った。切れ長の黒い瞳が、長めの前髪の下で薄く三日月を描く。
「あの変わりもの……いや、前衛的なやつらのことだ、なくはねえだろう」
「そうかもしれないけどさ、よくないよ」
「はいはい」
志賀は苦笑した。気だるく肩を回し、溜め息をつく。
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