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これから用事があると言い、秋声は伊織を部屋に残して去って行った。
部屋の敷き蒲団にぽすんと腰かけ、伊織は途方にくれてぼんやりと部屋を見回す。
畳の和室は、仄かにいぐさの香りがした。祖母の家と同じ匂いだ。それがわずかながら伊織を安堵させる。
やや狭い小部屋。畳の上には蒲団と、背の低い暗いブラウンの机、座布団、机の上にはポットに湯呑、茶菓子が添えてある。急ごしらえの客間だ。
伊織は膝を抱えた。ひどく寂しい気がした。
今にも身体が透けてなくなって、死んでしまうのではないかという怖さ。
それでいて、自分はここに、何を失うでもなく存在しているという不思議さ。
それらはふわふわと覚束ない非現実感を伊織に与えた。
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