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「きっかけって不平等で、万人に与えられるものではないと思うんだ」  藤村はぽつりと言った。花袋と伊織は首を傾げ、顔を見合わせる。藤村は続けた。 「僕、時々現世に干渉して見物に行くんだ。あの日もそうだった」  藤村曰く、現世に干渉(という言葉の意味が伊織にはよくわからなかったが)をして見物に行ったとき、彼の本を大事そうに抱えて帰宅する少女を見かけたのだという。 (僕の……本? 作家さんか何かやってるのかな)  伊織は内心首を傾げたが、話は遮れずに進む。 「それが50年前」 「結構昔ですね……」 「うん」  とすると、それは伊織ではない。伊織はまだ産まれてすらいないのだ。むしろ、彼女の母親すら産まれていない。
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