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自身が死にかけているのだと再認識させられ、藤村も痛ましい顔をするものだから何も言えなくなってしまい、伊織は開きかけた口を閉じた。
「……藤村くん、苺、あげるね」
「それは君にあげた苺……むぐ」
言いかけた口に苺を半ば突っ込むように差し向けられ、藤村は大人しく咀嚼する。
花袋は溜め息をつき、しんみりした様子で眉を下げた。机に頬杖をつき、伊織を見る。
「伊織ちゃん、深く考えない方がいいよ。考えれば考えるだけ、わからなくなるってあるもんだ」
「はい……」
伊織は頷いた。考えるも何も、答えはふたつにひとつだ。
元の世に戻って、その結果を受け入れるしかない。
しかし決心がつかない。未練が残る。死んでいたらと思うと、怖い。そういうことだった。
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