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「立花、伊織さんですね」  はきはきとした明朗な声が、部屋の奥から鳴り響いた。縮こまっていた伊織が顔を上げると、揺れる炎にブラウンの髪を透かせて、子供顔の青年がにこりと笑った。 「初めまして、武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)といいます。武者でいいですよ」  その笑顔の人好きのするのに安堵し、伊織ははにかんで頭を下げる。 「えと、よろしくお願いします、武者さん」 「よろしくお願いします。あ、どうぞ、徳田さんの隣に」 「秋声さんがいるんですか」  伊織はこの重厚な空気に不釣り合いな淡白な少年の姿を探した。並んだ顔のうち、一人が立ち上がる。さっぱりとした短めの黒髪。引き結んだ唇。小柄な体躯。秋声だ。
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