53人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生から聞いたよ、もうすぐお別れなんでしょ?だからね、これ、あげる。」
そう言って照れ臭そうに微笑んだのは、10歳前後の少年だった。夕暮れに照らされてから、その笑顔は少し赤い。そして、その少年ともう16歳になる僕の目線は変わらない。
当たり前だろう、これは僕の過去の記憶だ。この頃は僕もまだ10歳になっていなかった。
そして僕は、この記憶が嫌いだ。今僕は夢を見てるのだろう。しかし、自覚しても止まってくれることはなく記憶は再生され続ける。
彼が差し出したのは指輪だった。飾り気のない、シンプルな指輪。大人用のデザインなのだろう、一眼見ただけで、僕の指にはとても大き過ぎるとわかる。
「好きな人にはね、指輪を贈るんだって聞いたんだ。だから、はい。」
子供のふっくらとした手には不釣り合いなシルバーに輝く指輪に僕はたじろいだ。
僕だって、その頃には知っていた。好きな人に指輪を渡すことぐらい。そして、それは、男の人から、女の人にへ、だ。
僕は、今の自分の服装を見る。今朝、職員さんに間違えられて、双子の姉がいつも着ている服を着させられた。いつも、職員さんは僕らを間違えてしまう。それほどに僕らはよく似ていた。
僕はもう一度、目の前の少年に目を移す。彼はまた口を開く、知ってる、その先を、やめてくれ、
「好きです、大人になったら結婚して下さい」
照れ臭そうな、不安そうな、嬉しそうな、そんな色々な感情が詰まった彼の赤い笑顔に、ひゅっと、僕の喉が鳴った。
ここで決まって、俺は目を覚ます。
最初のコメントを投稿しよう!