壁井華子と完野社長(1)

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壁井華子と完野社長(1)

私は大学卒業後、大手商社 三ツ丸物産の事務職に採用された。  事務は事務でも、営業事務という営業の補佐で、仕事に要領のよさが求められる事務職だった。  私は、大学在学中に、そこそこのパソコンスキル、事務職に有利な資格を取得。  きっと、寿退社は無理だろうから、せめて、スペシャリストとして定年までは働きたい。そう思っていた。  しかし、最初の頃はみんな同じくらいだったのに、3年も経つと、随分と差が開いていた。  同期たちは営業職との信頼関係を築いていく。私はといえば、人より書類作成も手配も遅いと言われ、担当の営業にため息をつかれる毎日だった。   「壁井ちゃんは丁寧なのはいいんだけど、要領よくやってくれないと、俺の営業成績まで悪くなっちゃうよ」 「総務のゆりちゃんは、かわいいから存在しているだけでオッケーだわ」  そんなことを大きな声で言う担当営業は、私の苦手なタイプだったが、華やかな見た目と軽妙なトークで社内では人気者だった。  お前の営業成績が落ちてきているのは、お前の努力不足で、私のせいにするんじゃない。  そうは思っていても、影でいろいろ言われたり、みんなの前で直接詰られたりすると、私の精神もかなり追い込まれてしまっていた。  そんなとき、通勤電車で読んでいる携帯サイトの広告バナーが目に入った。バナーナの人材派遣サイトで、サルとバナナが描かれたバナーに記載されていた文言に惹かれてクリックした。 『あなたのよいところを見つけます』  強がっていても、本当は嫌になっていたのだ。うまく仕事をこなせない自分に。かわいくなれない自分に。  そんな私のいいところを、本当に見つけてくれるのだろうか。  無料で登録できるし、嫌なら断ればいい。 正直、期待もしていなかった。期待外れでも、この生活が続くだけだ。  私は電車に乗っている間に登録を済ませ、面談予約も済ませていた。  
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