0人が本棚に入れています
本棚に追加
源一は怪訝に思っていた。
クローゼットから出した、お出かけ用のお気に入りのリュックサックが何か変だと漠然と思っていた。
しかし、普段からそれほど気にしない子なので、その杞憂はすぐに去っていて、床に並べているリュックに入れるものを見てから笑みを浮かべた。
明日は近くにある市営動物園に遠足に行く。
特に源一のお気に入りはふれあい動物園だ。
住んでいるこのマンションでペットを飼うことは一切禁止なので、動物と触れ合うことを心の底からうれしく思っているのだ。
近くの児童公園には野良猫がいて、源一よりも小さい子供たちのアイドルになっているのだが、源一の母親の悦子は敏感に感じ取って、動物に触れることを好まない。
よって、明日の遠足が終わってすぐに、消臭剤を体に振りかけて帰ってくることになる。
もちろん、ハンディータイプの消臭剤も準備している。
その消臭剤を入れると、『ゴト』という音がして、リュックから床に落ちた。
―― え? ―― とゲンイチは思いリュックの底を見ると、一辺5センチほどの正方形の穴が開いていた。
そして石鹸の香りの消臭剤のにおいがしていた。
―― ママに… ―― と思ったのだが、学校で習ったばかりの裁縫を自分でしてみようと思い、お気に入りの当て布を器用に切って、内側から縫い付けた。
きちんと縫えた安堵感を感じながら、ふと嫌なにおいを感じた。
しかし今はもうにおわない。
源一は首をひねりながらも、きちんと縫えた喜びに満ち溢れて、持っていくものをリュックに詰め込んで、縫った部分を見て笑みを浮かべた。
すると、スマートフォンにメールが来ていることに気付いて、画面をタッチした。
小学6年生の源一は幼稚園の頃から携帯電話を持たされていたので、スマートフォンを持っていることが普通の生活になっている。
文章を読むと、『ミーちゃん、知らない?😢』とあった。
送ってきたのは同じマンションに住んでいる、ひとつ年下の花蓮だった。
―― ミーちゃん… あ、公園の猫の… ―― と思った瞬間に、源一はリュックを見た。
あの嫌なにおいだと感じたのは、猫のにおいだと気づいたのだ。
どうして源一のリュックからそんな匂いがしたのか、全くわからない。
もう一度匂いを嗅いだが、猫のにおいではなく、芳香剤のにおいしかしていない。
源一は、『今日はボクは見てないよ』とメールを打って送信した。
源一はスマートフォンをスタンドに立ててから、リュックをベッドの脇に立てかけた。
明日のことを考えるとうれしいのだが、あの猫に匂いが気になって仕方がなかった。
源一は部屋を出て、お気に入りのテレビを見るためにリビングに行った。
もうこの時は猫のことなどすっかりと忘れていた。
「明日の準備、終わったの?」と母の悦子が明るい声でキッチンから声をかけてきた。
「うん、終わったよ!」と源一はいつものように元気に答えた。
そしてソファーに座ってテレビをつけた時に、いきなり猫のにおいがした。
源一が匂いがした方を見ると、満面の笑みの悦子が源一を見ていた。
源一は理由はわからなかったが、上半身が小刻みに震え、腕に鳥肌が立っていた。
~~ おわりぃー… ~~
最初のコメントを投稿しよう!