12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
1噂の令嬢
ライトア王国、フローリア侯爵家には2人の娘がいる。
長女シルリーナは嫉妬深く欲深い。とても美人ということはないが、そこそこ顔が整っており、明るく振る舞う姿は令息たちに好かれた。
反対に次女エリスは、元々美人だったが右目あたりには大きな火傷の傷のせいで、不気味な容姿だと侍女からも見下され、家族から虐げられていた。
エリスの人生を酷いものにかえた火傷は嫉妬に狂った姉がまだ幼い7歳の妹に熱湯をかけたもの。
そのことを知らない侯爵は不気味だとエリスを社交界デビューもさせず、1人の侍女だけつけ16歳まで部屋に閉じ込めた。
エリスと違い、シルリーナはパーティーに参加しては、妹から火傷を負わされそうなったと嘘をついては味方を増やしていった。
外出の許しがでた17歳の誕生日は、シルリーナの行いにより、エリスの社交界デビューは酷いものとなった。
※※※
「見て。あの顔。不気味だわ。」
「シルリーナ嬢と同じ姉妹とは思えないわ。」
周りからは、ヒソヒソと不気味がられ嘲笑うような声が聞こえてくる。
話の的は、ホールの中心で漆黒な髪を上にあげ上品な紺色のドレスを纏っている1人の令嬢、エリス・フローリアに向けられていた。
その理由は16にもなって消えない顔にある焼け跡だった。
誰も近づこうとしないエリスにたった1人、話かける者がいる。
その女はエリス同様のトパーズの瞳に綺麗な栗毛色の髪をおろし流行りの黄色いドレスを見に纏っていた。
女は綺麗な顔立ちで、どうやったらより綺麗に見えるかをよく知っていた。
「エリス、社交界はどう?」
「お姉様。」
「あんなこと言われても気にしないでね。あなたは自慢の妹よ。」
嘘つき。
周りから見れば、妹を気遣う優しい姉に見えるだろう。
優しい振る舞いに周りにいたパーティー参加者はシルリーナを褒め称える。
「シルリーナ様は、なんてお優しいのでしょう。」
「聞いた話によると、エリス嬢がシルリーナ嬢に嫉妬でお湯をかけようとしたらしいわよ。」
「まぁ!怖いわね」
「それなのに、シルリーナ嬢はあんな優しく接して。なんて素敵な方でしょう!」
「悲劇のヒロインぶっているエリス嬢は自業自得ではなくて?」
さらに、エリスを見る目が冷たくなる。
エリスは、姉の裏の顔を知らない事実とは違う話に踊らされている大人のことを哀れに思わず顔を曇らせる。
そのことに気づいたシルリーナは顔を覗き込み、心配する顔をした。
「エリスどうしたの?体調でも悪いの?」
「休む?」と妹を心配する心優しい姉の演技をする。
姉に負けないようにこやかに笑いかける。
「ありがとうございます姉様。では休憩室に行ってきますね!」
てっきり困る反応をすると思っていた姉はつまらなそうに「分かったわ」と言った。
やっと姉から、貴族から解放されたとエリスは安心したが、休憩室に行くと華やかなドレスに身に包んだ令嬢たちがさっきのようにヒソヒソと話す。
そんなことを気にもせずに私はソファに座り、置いてあったポットに手を伸ばす。
「あら、エリス嬢。お茶がほしいのかしら?こちらをどうぞ。」
と頭の上からお茶を被せられた。
戸惑いを隠せない私を見て周りにいた令嬢も笑い出す。
「感謝しても良くってよ?」とぐるぐるに髪を巻いたハニーブロンドの令嬢が意地悪そうに笑う。
「醜いお顔が少しはましになりましたわよ?」
「クスクス。これくらいシルリーナ様に比べたら、可愛いものですわ」
「可愛そうなシルリーナ様!こんな悪女を妹にもっているのですものね」
初対面で名前も知らない令嬢が国を支える侯爵家にお茶をかけるなんて前代未聞だが、この事態によっぽど悪い噂を流しているのが分かる。
最初のコメントを投稿しよう!