2優しさ

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2優しさ

金髪の令嬢は、侯爵家の次女エリスには何も力がないことを知ってるのか更に続ける。   「見て! この、ひどい傷跡! 顔の3分の1もあるのよ?」 まるで宝物を自慢するような口調に、笑い声が部屋に広がる。 それでも私は我慢する。 大丈夫。私は16年間あの家で耐えてきたのだから。 「お喋りはすみましたか?金髪令嬢?」 「なっ?!」 「だって、初対面なのに名乗ってくださらないもの。」 気に食わない態度に口の項をピクピクさせるがあくまで平常を取り繕う。 「レティシア・ティアラートですわ!」 「レティシアさんね? よろしくね。」 ニコッと微笑みかける私を不気味に感じたのか後ろに一歩下がる。 「え、えぇ! よろしく。ちなみに私は聖女候補なの。」 聞いてもないことを自慢げに言うレティシア。 威張るのも無理ないかもしれない。 聖女。それは国を守り、神に愛され聖なる力をもっている女性のこと。 聖女は身分関係なく、心が綺麗な持ち主だけなれると言われる。 神様からのお告げで1ヶ月後の祭典で発表される。 国を守る力を持ってるため、重要視され身分も、王族と結婚することが多い。 「なれるといいですね。お茶かけ聖女。」 「なっ!? お茶かけですって?!」 「あっ!すみません!紅茶でしたか?!」 「クスっ」とレティシアの取り巻きが噴き出す。 間違ってはないだろう。 お茶をかけるような人が聖女なんかなれるわけがない。 笑った取り巻きたちは、レティシアに睨まれ口を紡ぐ。 レティシアは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたが、何かを思い付いたようにニヤリと不気味な笑顔を見せた。 一歩エリスに近づく。 「その服じゃ外に出られませんね。お詫びとして……」 スッと手を上げ後ろに合図すると、察したように取り巻きが何かを取りレティシアに渡した。 それが何なのか分からなかったが、バシャン!と冷たい物体が体にかかり背筋が震えた。 「水で洗って差し上げますわ!」 勝ち誇ったような顔で仁王立ちする。 はぁー…… 自分より上の身分の令嬢に水をかけるなんてため息しかでない。 髪はすっかり水浸しでまるでお風呂上がりのよう。 これでドレスについた染みは残らないだろう。 何しろこれしか持ってないのだ。 おそらく、悲しむと思ったレティシアは意地悪そうな笑みを浮かべながらこちらを見る。 エリスは再びニコッと笑顔を向ける。 「ありがとうございます。お優しいですね。立派な水かけ聖女になれますよ!応援しますね!」 「この……!」 この態度に腹が立ったレティシアが罵声を浴びせようとした時、誰かが部屋に入ってきた。 「あ……お取り込み中でしたか」 一瞬驚いたようなおっとりした優しい口調の男性の声。 振り返ると優しそうな目をした若い男だった。 ダークブラウンの髪に澄んだような空色の瞳。 質素な服装をしているが、服にチリやホコリ一つついてないところを見ると、おそらく高貴な身分なんだろう。 お忍びで来ているのかな? 「弱いものいじめはよくないのでは?」 「はぁぁ? 部外者は黙ってらして?」 見た目で身分が下だと判断してレティシアはズイっと顔を近づけ威嚇する。 「いいこと? このことを誰かに言おうものなら、翌日なら薄汚い平民生活になるわよ?」 「・・・・」 ダークブラウンの髪の男は何も言わないが、表情からは余裕が見られる。 すると、どこからともなく、自分の間に割り込んできた、がたいのいい男に戸惑うレティシア。 男は腰に刀をぶら下げていて、主に近づけまいとキッと睨み付ける。 やはり、護衛がついているところを見ると高貴な坊っちゃんってとこか。 敵わないと思ったのか、うっ。と1歩後ろに下がるレティシア。 「そ、そういえば!私用事がありまして……失礼しますわ!」 白々しい演技で、慌てて扉に向かうレティシア。 それにつられ取り巻きも続いて部屋を出ていく。 最後の1人がバタンと扉を閉めた音がすると、男はエリスに歩み寄ってくる。 助けてくれた人にこの顔を見られたくない! 傷跡を隠すように、下に俯いたが髪の毛が濡れていて上手で隠せない。   「こ、来ないで下さい! わ、私は……!」 それでも近づく男。 元々知ってたのか知らなかったのか分からないが、傷を見ても驚きもせずフワッと膝まづく。 「大丈夫ですか?」 「え……」 戸惑った。 初めてのことだった。 心配されたのも、取り繕うことのない優しい気遣いも。 何しろ「大丈夫?」なんて言われたことなかった。
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