彼女の首の傷

7/16
前へ
/16ページ
次へ
 早送りしたように放課後の中庭。 「俺、篠崎のこと好きなんだ」  嘘みたい。ずっと気にしていた隣のクラスの木村くんに告られてる、私。 「付き合ってくれないか」 「はい」  校舎の窓がいっせいに開き、祝福の声が降り注ぐ。私たちに向けられる歓声。クラッカーが鳴り吹奏楽部がファンファーレを奏でる。 「おめでとう美晴ちゃん!」 「おめでとう篠崎さん!」 「僕も彼氏にしてー!」  どこに行っても褒められる。私の周りは人が絶えない。皆私のそばにいたいと言う。  こんなにちやほやされるなんておかしい。  だって私、本当は……。  その先が思い出せない。  放課後、正門前に黒塗りの車が停まった。 「美晴ちゃん、迎えに来たよ」  アイドルグループのセンターの子だ。私の推し。  近くで見るとホントにかっこいい。 「さ、乗って」  エスコートされて車に乗り込む。ドラマみたい。ドキドキしながらドライブ。夜景の綺麗な高級レストランで食事。偶然居合わせた芸能プロダクションの社長からスカウトされる。  どこからか、私を呼ぶ声が聞こえる気がした。  くぐもった声で、何度も。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加