26人が本棚に入れています
本棚に追加
早送りしたように放課後の中庭。
「俺、篠崎のこと好きなんだ」
嘘みたい。ずっと気にしていた隣のクラスの木村くんに告られてる、私。
「付き合ってくれないか」
「はい」
校舎の窓がいっせいに開き、祝福の声が降り注ぐ。私たちに向けられる歓声。クラッカーが鳴り吹奏楽部がファンファーレを奏でる。
「おめでとう美晴ちゃん!」
「おめでとう篠崎さん!」
「僕も彼氏にしてー!」
どこに行っても褒められる。私の周りは人が絶えない。皆私のそばにいたいと言う。
こんなにちやほやされるなんておかしい。
だって私、本当は……。
その先が思い出せない。
放課後、正門前に黒塗りの車が停まった。
「美晴ちゃん、迎えに来たよ」
アイドルグループのセンターの子だ。私の推し。
近くで見るとホントにかっこいい。
「さ、乗って」
エスコートされて車に乗り込む。ドラマみたい。ドキドキしながらドライブ。夜景の綺麗な高級レストランで食事。偶然居合わせた芸能プロダクションの社長からスカウトされる。
どこからか、私を呼ぶ声が聞こえる気がした。
くぐもった声で、何度も。
最初のコメントを投稿しよう!