神様はいませんでした

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 東京を抜けて背の高い建物が少なくなってくると、それに比例して車内の人数も減っていきました。片方が増えてもう片方が減る現象は、必ずしも反比例じゃないんだよ。これは、新聞記事を読んでいるあんたが口にした言葉でした。私はそれ知ってから、世界がもう一段階明るくなったような気ぃしていました。いまでも反比例という言葉を誤用する人を見て、得意げな気分になります。  最初の畑を通り過ぎて二時間が経つまで、私はずっと窓の外を眺めていました。建物の背が低くなると今度は山が背伸びを始めるから、不思議なもんです。世界中の白をぎゅっと凝縮したみたいな雲を見たとき、数年前にあんたが飼っていたハムスターのことを思いだしました。あのハムスターがもう少し長生きしていたら、あんたがここまで自殺を日課にすることはなかったかもしれんね。そう考えると、なんだかもうすこしかあいがってあげたらよかったと思うんでした。
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