神様はいませんでした

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 さて、駅から歩いて十数分、目的の神社が見えてきました。私がこうして神社へ向かっていることを知ったら、あんたは私が信心深い人間だと驚くかもしれません。実を言うと、私は、神様なんて信じていないんよ。でも、神様がいないとわかっていても祈らなきゃいけないときがあるんだと思います。だから私はあんたが生きているのであればこうして神社へ足を運ぶ必要があったんでした。  真っ赤に塗られた鳥居をくぐると、そこには別世界のような空間がひろがっていました。私は日本古来のものがまとう雰囲気が好きなんです。人や草木だけではなく、空間自体がその空気に誘われて、遠慮するみたいに佇んでいる様子がこころを浄化してくれるような気ぃするんです。寺や神社にいる人のうちどれくらいが神様の存在を信じているんかはわからんけんど、もしいるとしたらただの人間とそう変わらないと思う。神様が完璧な存在だとしたら、私たちのような欠陥品は生まれ得ないはずなんよ。 「神様、神様。どうかゆうちゃんをお救いください」  私は五円玉を賽銭箱に投げ入れたあと、二回手を叩いて、それからお祈りしました。あんたが死にたくならない世界を私はたしかに作りたかったんよ。私を救ってくれたあんたが救われないのはどう考えてもおかしい。この話を読んだらあんたは「五円玉って、『ご縁』に掛けてるだけだからね」と言って笑うだろうけんど、私にはできる限りのことを本気でするしか残されていなかったんです。大切なあんたをどうしても失いたくなかったんです。
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