アラーナはもう帰れない。

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「見てくれ、アラーナ。この木、なんか見覚えがあると思ったら、サクラの木にそっくりなんだ!遺伝子情報も殆ど変らない!」 「ああ、クリフの地元には昔あったんだっけ、サクラ。春にはピンク色の、とても綺麗な花を咲かせる木なのよね?今は全部枯れちゃってるけど」 「そう。だから俺も図鑑でしか見たことはなかったんだけど……うん、何度照合しても間違いない。凄いな、ここまで一致を見るとは」  木の幹に突き刺していたアンカーを引き抜き、満足そうにうなずくクリフ。ピストル型の遺伝子採取機材から撃ちこむことで、植物の遺伝子情報を抜き取り、かつ詳細な成分分析もできる優れものである。  リリアンの方の計器も見たが、気温二十度、湿度54%。ついでに酸素や窒素の割合も地球とほぼ変わらないと来ているらしい。なんとも出来すぎていると思ってしまう。まるで、地球人のために特別に誂えた星のようではないか。 「うっ……!」  唯一の難点は、少々風の音が強いこと。木々の葉擦れの音なのか、生き物の鳴き声なのか、風が吹くたび少々ノイズが煩くなることだけが悩みである。その瞬間は、仲間との会話さえもままならない。これは、次に来るチームには集音機の調整を頼んだ方がいいかもしれないな、と思う。特定のノイズをキャンセルしてくれる装置を、今回は手配していなかったのだ。 「!」  ふと、視界にちらりと白いものが映った。アラーナの視線に気づいてか、繁みの中からとびだして、何かの生き物が走り去っていく。白くぴょこんと尖った、二つの大きな耳が見えた。少々サイズは大きいが、形状だけ見れば地球にかつていた生き物・ウサギによく似ている。 「ま、待って!……リリアン、クリフ、あんた達も見たわね?追いかけるわよ!」 「あ、待ってくださいよリーダー!」 「待て待て待て、置いて行くなって!」  二人に指示を出し、アラーナはウサギ?を追いかけ始めた。  宇宙飛行士の体力訓練で、いつもトップだった自分である。学生時代はずっとマラソンの選手だったし、二十九歳の今も衰えたつもりはまったくない。長い駆けっこで、負ける気はなかった。
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