アラーナはもう帰れない。

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 ***  異変に気付いたのは、追いかけっこを始めて暫くしてからのことである。すばしっこいウサギを見失ってしまい、立ち止まってきょろきょろと周囲を見回したところで私はようやく気づいたのだ。――傍にいたはずの人間が、一人減っていることに。 「あ、あれ?クリフは?」 「えっ」  ぜえぜえと息を整えていたリリアンが、慌てたように後ろを振り返る。 「あ、あれ?さっきまで一緒にいたのに」 「……迂闊だったわね、追いかけるのに夢中になっちゃった。ごめんなさい、私のせいだわ。すぐ連絡を取るから」  いつの間にか、薄暗い森の奥まで入り込んでしまっていたようだ。まだ木々の隙間から青空は見えているが、地面もどこかぬかるんでいて薄暗い印象である。さっきまでとは、周囲に生えている木の種類も違うようだ。木の幹がこけむしていて、針のような形の葉が連なっている木々に取り囲まれている。スギとかマツとか、そのへんの種類だろうか。  自分達はみんな、ボタン一つで着脱可能な宇宙服を着ている。腕時計型の装置がそれだが、ここには互いへの通信機能も組み込まれているのだ。宇宙服を着ている限り、この腕時計が外れることもない。壊れていなければまず無線連絡が可能だろう、とアラーナが通信ボタンを押そうとしたその時だった。  どさ。  後ろで何かが落下する、重い音。なんだろう、とリリアンと二人で振り向いたアラーナは。 「ひっ!?」  思わず、その場に尻もちをついてしまっていた。ごろん、とボールのように転がったそれは、明るい茶色の短髪、褐色の肌を持っていた。紛れもなく、自分達が見慣れたフリフの特徴を持った、生首。しかし、それがクリフだとすぐ断言することはできなかった。何故ならその両目は潰されて大量の赤い涙を流し、口は顎が外れそうなほど大きく開いて歯を欠落させ――まさに苦悶としか言いようがない表情を浮かべていたのだから。 「く、く、クリフ!?なんで!?」  ウサギを追いかけているのに夢中だったのは事実だ。しかし、悲鳴らしきものは聞こえなかったし、危なそうな生物の気配も全く感じていなかった。それなのに何故、突然クリフは死んでいるのか。目玉を抉られ、首をちぎられるというあまりにも無惨な姿で。 「きゃあっ!?」 「り、リリアン!」
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