アラーナはもう帰れない。

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 そうだ。クリフが死んだ。リリアンも殺された。その力も正体もあまりにも得体が知れないとしても、次は。 「!?」  ぞぞぞぞぞ、と周囲の木の根元から、何か黒いものが這い出してくるのが見えた。小さな小さな、大量の――黒い蟻のような蟲の群れである。それが徐々に、地面に座り込んだまま、腕を蔓に絡め取られて動けないアラーナのところに徐々に近づいてきているのだ。 「あ、ああっ……!」  思い出していた。少し前に見た古い映画。軍人たちの群れに、軍隊蟻が次から次へと襲いかかっていく作品を。小さなあり達は、ドアを閉めてもその隙間から入り込み、換気扇からも無数に侵入して人間を追い詰めるのだ。一匹一匹は弱くても、それが数百、数千、数万、数億の群れになれば話は全く別なのである。黒い群れは、自分達よりも遥かに大きな獲物に噛みつき、体内にもぐりこみ、弱らせて巣穴に運び込んで餌としてしまうのだ。 「いや、いやっ!」  足をばたつかせて抵抗するも、意味などあろうはずがなかった。あっというまに黒い群れはアラーナの足に、腕に這い上がってくることになる。ぴったりと体にフィットした宇宙服のボディスーツも関係なく、服の下へ潜り込み肌へと噛みついてくるのだ。  それだけではない。下半身に、顔に。自分達が掘り進むに最適な“穴”を見つけると、次から次へともぐり込んでくるのである。目、鼻、口、尿道、膣、肛門。黒くてごつごつした、鋭い歯を持った蟲達が遠慮なくアラーナの体内へ殺到してきた。肉穴の突き当りにぶちあたれば、それを抉って掘り進むことも厭わずに。 「ひ、ひぎゅううううううううううううううううっ!?」  目玉は抉られてすぐに視界は真っ暗になり、鼻も喉も塞がれて呼吸もままならなくなる。股間の激痛、下腹部の激痛、目鼻の激痛に肺の激痛、そして食道と胃袋の激痛。ばたばたと両足をめちゃくちゃに動かしても、その苦しみが和らぐことは一切ない。悲鳴も上げることができなくないり、ただ無言で悶絶し続けるしかないのだ。 ――痛い痛い痛い痛い!お願いやめて、やめて、もう殺してええええええええっ!  恐ろしいことに。アラーナの意識が完全に消え失せるまでには、数十分以上の時間が必要だったのである。
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