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その翌日、昼休憩が終わった雪乃は「多喜さんが呼んでるよ」という藤乃からの伝言を聞いて、戦々恐々としながら使用人室へと向かった雪乃。だが、使用人室へ行ってみるとそこへいたのは隊士の琥太郎で、多喜の姿はどこにも見当たらない。
「あ、あれ?多喜さんは……」
「実は、僕が多喜さんに頼んで雪乃さんを呼んでもらったんです」
「なんだ、そうだったんですか」
ひとまず多喜からのお叱りの呼び出しではなかったことに安堵した雪乃は、ふうと小さくため息をついた。
「けど、どうして琥太郎さんが……?わたしに何か用でしたか?」
雪乃が尋ねると、琥太郎が手紙を差し出してきた。
「これは?」
「時雨さんから、雪乃さんに渡すようにことづかったものです。今日の仕事終わりのご予定は?」
「今日ですか?特に、なにもありませんけど……」
「ではこの手紙を持参して、福寿へ行ってください。用件は渡せば分かるから、としか俺は聞いてないんですが……」
琥太郎の言葉に、雪乃は「ああ」と返した。
(もしかして昨日言ってた、お菓子のことかな)
「承知しました。わざわざありがとうございます」
「いえ、では俺はこれで」
礼儀正しく頭を下げて出ていく琥太郎に、再度お礼を言って見送ると一人になった室内で雪乃は手元にある封筒に視線を落とす。しっかりと約束を守ってくれたことに嬉しくなった雪乃は、ふふと小さく笑みを零した。
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