ひまわりの愛しさ

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「雪乃ちゃん、大丈夫?」 謎の老婆から出会ってから数日。炊事場で皿洗いをしていた雪乃は、隣で同じく皿洗いをしていた葵に声をかけられ、自分がぼんやりとしていたことに気づく。今は仕事の最中だった。 「疲れてるようなら、私が代わるけれど」 「あ、ごめんなさい。ちょっと、考えごとしてて……」 はっとした雪乃は、慌てて仕事に集中しないと、と手を動かし始める。葵はそんな雪乃を見遣ったあと、また自分も皿洗いに戻る。 「……悩みごとかしら?」 「え?」 「雪乃ちゃん、とても難しい顔しているから」 今度は雪乃が葵の方を見る。 「そう、でしたか……?」 「ええ」 にこりと微笑む葵は、聞き上手な和泉とよく似た雰囲気を纏っている。やさしげな瞳に、心が和む。だからか、気づけば雪乃は「わたしの、知り合いの話なんですけど」と前置きをした上で、自分がいま抱えている悩みを吐露していた。 「好きな人に振り向いてもらうためには、どうしたらいいかなって」 「あら、恋のお悩み?」 「今のところ相手に好きになってもらえる見込みは、まったくないし、そういうのに興味もなさそうな感じで、どうしたら振り向いてもらえるかなって……」 と、雪乃はそこまで言って「って、知り合いが悩んでるんです!」と、慌てて付け加えた。そんな雪乃に葵はふふ、と笑うと「確かに、恋愛に興味がない人を振り向かせる方法って難しそうね」と返す。 「でも、そのお友だちが好きな人は、本当に恋愛に興味がない方なのかしら?」 「それは……」 そう尋ねられて、言葉に詰まる雪乃。時雨が恋愛に興味がない、と思っていたのは周囲の噂と、前世で女っ気がまったくなかったことからだった。葵にそう問われ改めて考えてみると、それは自分の思い込みかもしれないことに気づく。 そんな様子の雪乃に、葵はやさしげな眼差しを向ける。 「一つ確かなことは、何も行動を起こさなければ、望んだ未来は手に入らないということよ」 「望んだ、未来……?」 「ええ。だから、好きな人に振り向いてほしいと思うのなら、その人にたくさん話しかけたり、自分を磨いたりして、とにかく行動を起こすこと。そうすれば、恋愛が成就する可能性が一しかなかったものが、二や三に近づくかもしれないじゃない?」 「確かに……」 雪乃がそう呟くと、葵はぽんぽんと雪乃の頭を撫でてくれた。 「たとえ、相手の方が身分が高いだとか、恋愛に無頓着とか、そんな障壁があったとしても、強い想いは必ず相手に通じるわ」 「そういうものですかね……」 「そういうものよ」 葵は雪乃の頭をひと撫でして「お友だちに、そう伝えておいて」と、またにこりと微笑んだ。雪乃は顔を赤らめながら「わ、わかりました!伝えて、おきます」と返したが、きっと葵に自分のことだとばれているだろうなと思う。 (わざわざそれを指摘しないところが、葵さんらしいけど) 葵に前向きな助言をもらった雪乃の心は、少しだけ軽くなったような気がした。
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