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僕の新しい家族は四人だ。 まず、お父さん。 お父さんはいつも、僕を散歩に連れて行ってくれる。 一緒に近所のパトロールをするのは、僕の朝晩の日課だ。 お母さんは、僕にご飯を作ってくれる。 普段は茶色のカリカリだけれど、たまに良い匂いのする缶詰を出してくれる。 ユメちゃんは、まだ五歳の女の子だ。 僕の首に、日替わりでリボンを付けてくれる。 彼女のおままごとに付き合ってあげるのは、僕の毎日の仕事だ。 僕は大抵「ユメちゃんの格好良くて強い旦那様」という役になってあげている。 おじいちゃんは、僕を畑仕事に連れて行ってくれる。 食べ物を作る名人だ。 「ゴマ」 畑のトマトを嗅いでいると、おじいちゃんが僕を呼ぶ。 おじいちゃんは、西瓜を指差していた。 「見てごらん、これも猪の仕業だ」 おじいちゃんが指し示した場所の土は、所々が穴ぼこになっていた。 僕より大きな獣の足跡、葉や茎を噛み千切った跡まである。 おじいちゃんは、大きく溜息を吐いた。 「最近は、猪や猿の数が増えて困る。 熊まで出るらしいな」 「ゴマが追い払ってくれたらいいんだが」と、おじいちゃんが困ったように笑う。 僕は二、三度尻尾を振って応える。 「お前には無理か」 「よし」と言って、おじいちゃんが腰を上げた。 帰る準備をするのだろうか。 持っていた鍬を軽トラックの荷台に乗せ、僕を振り返る。 「帰るか、ゴマ」 その言葉を合図に、僕も車の助手席に乗った。 おじいちゃんが窓を開けて、車を発進させる。 僕は、顔を外に出して風を切る。 僕は、この村が大好きだ。 そして、ここで一緒に暮らしている家族の皆が、もっともっと大好きだった。
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