1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

僕の新しい家族は四人だ。 まず、お父さん。 お父さんはいつも、僕を散歩に連れて行ってくれる。 一緒に近所のパトロールをするのは、僕の朝晩の日課だ。 お母さんは、僕にご飯を作ってくれる。 普段は茶色のカリカリだけれど、たまに良い匂いのする缶詰を出してくれる。 ユメちゃんは、まだ五歳の女の子だ。 僕の首に、日替わりでリボンを付けてくれる。 彼女のおままごとに付き合ってあげるのは、僕の毎日の仕事だ。 僕は大抵「ユメちゃんの格好良くて強い旦那様」という役になってあげている。 おじいちゃんは、僕を畑仕事に連れて行ってくれる。 食べ物を作る名人だ。 「ゴマ」 畑のトマトを嗅いでいると、おじいちゃんが僕を呼ぶ。 おじいちゃんは、西瓜を指差していた。 「見てごらん、これも猪の仕業だ」 おじいちゃんが指し示した場所の土は、所々が穴ぼこになっていた。 僕より大きな獣の足跡、葉や茎を噛み千切った跡まである。 おじいちゃんは、大きく溜息を吐いた。 「最近は、猪や猿の数が増えて困る。 熊まで出るらしいな」 「ゴマが追い払ってくれたらいいんだが」と、おじいちゃんが困ったように笑う。 僕は二、三度尻尾を振って応える。 「お前には無理か」 「よし」と言って、おじいちゃんが腰を上げた。 帰る準備をするのだろうか。 持っていた鍬を軽トラックの荷台に乗せ、僕を振り返る。 「帰るか、ゴマ」 その言葉を合図に、僕も車の助手席に乗った。 おじいちゃんが窓を開けて、車を発進させる。 僕は、顔を外に出して風を切る。 僕は、この村が大好きだ。 そして、ここで一緒に暮らしている家族の皆が、もっともっと大好きだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!