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プロローグ
2018年8月25日午後9時55分
公園の街灯は壊れていた。昼間は木陰を作り恩恵を与えてくれるはずの木々も、今は月明かりを遮るだけで、その下の闇はいっそう深くなっている。
その闇の中に、家出をして来た男の子が一人、座り込んでいた。彼の姿は、遠目からではとても見つけられないほど、闇に溶け込んでいる。
同じ時、滑り台の脇に一人の男が立っていた。
いつ、どこから現れたのかも分からない男は、その位置からは暗闇しか見えないはずの木の根本を、真っ直ぐに見据えていた。
男の子が、その男の視線に気付いた。見知らぬ男の視線を、自分が引きつけてしまっている理由が分からない。そんな不気味さに、男の子は思わず逃げ出そうとして木の下を出た。
すると、男は真っ直ぐにこちらに走ってきた。
「……な、何ですか?」
男の子は震える声で聞いた。
「お前は、東優斗か?」
「えっ?」
突然自分の名を呼ばれ、優斗はうろたえた。
「えーっと、そうですけど。……まさか、お父さんに言われて?」
一つ思い当たった理由を問う。
しかし、男は優斗を見つめたまま何も言わなかった。その表情は優斗からは窺えない。ただ、気味が悪かった。
ゆらりと男が動く。優斗が戸惑っていると、男は何かを手に持った。
月明かりを反射し、一瞬だけそれが輝く。背筋が凍りつくような銀色の輝きは、明らかに人を殺傷することの出来る刃のものだ。
優斗はとっさに後ずさったが、すぐに木の幹にぶつかる。根につまづき、倒れ込んだ優斗の背後で、男がナイフを振り上げる気配がした。
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