2・森の民と村の娘

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 ある日もズィダは田畑のあぜ道で、水を汲むのが遅いと言われて村人に殴られていた。  そこに止めに入ったのが、偶然それを見かけた娘、ミナハだった。  その時の彼女は簡素な麻の服を着た、少年のような身なりをしていた。しかし胸に輝く青い石の首飾りが、彼女の身分の高さを示していた。  娘は怒りを込めた口調で、村人を厳しく叱責した。 「やめろ、村の奴隷は私の父の財産でもある。意味もなく殴るな!」  強い態度のミナハの涼やかな声、若さからくる輝き。  それはしなやかな雌鹿を思わせた。    その日から、ズィダは彼女のことが忘れられなくなった。 ーーそれが半年前のことだった。  周りが彼女を敬う態度から、すぐにさとったのは、彼女は村の長の娘であり、巫女だということだった。  彼女は森が好きで、よく屋敷から抜け出して野山を自由に駆け回るのだと。  しばらくして、森の中でミナハが(いのしし)に襲われそうなところを、ズィダが助けた。  足をくじいていた彼女の怪我を、彼が手当をして背負い、村に戻った。  それから密かに二人は森で会うようになった。  たまに森を散策したい娘に、彼が付き添うだけ。それだけの互いに恋だとも気が付かない、誰にも秘密の逢瀬だった。  今日、二人はブナの大木の根本にある、大岩の側で待ち合わせをしていた。  大木に絡むようにして、ブナの木は根を張っている。屋根のように伸びた枝が、緑の木陰を作る場所だった。  その大岩の場所で立っているミナハの様子がいつもと違うことに、ズィダはすぐに気がついた。
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